温泉と湧き水の記憶

コラム

温泉と湧き水の記憶

柊クイチ [2012/3/12]

体質の関係で小さい頃から温泉に連れて行かれることがよくありました。
一番体質に合ったのは、秘湯といっていい温泉。車で細い道を山頂まで登り、温泉の他は畳敷きの休憩室があるだけ。
お世辞にも子どもにとって楽しい場所という訳ではありませんでしたが、湯治というのは得てしてそういうものです。
本をたくさん持っていって暇を潰しながら、1日かけて5〜6回程温泉に浸かりに行くことが何度もありました。

そしてそういった温泉の近くには湧き水が出ている場所もあります。
私が連れて行かれていた温泉の湧き水は霊水と評判で、遠方からわざわざ汲みに来る人もいる程です。

……と、ここまで書くと『温泉はともかく霊水なんて胡散臭い』と思われる方もいるでしょうが、単純に『湧き水』というカテゴリーで見ると、そういった例はたくさんあります。

例えば私が知っている数箇所の湧き水が汲める場所でも(道の駅などにもある場合も)、休日ポリタンクやペットボトルを抱えて並ぶ人を見かけます。前述したように『何年もそこの水を汲みに来ている』という人も決して珍しくはありません。

そうやって汲んだ水を何に使っているかというと、普通に飲む他、料理に使ったり、お風呂上りなどの仕上げに湧き水でパッティングしたりと実に様々です。

これにどれ程の効果があるか? と言われると、やはり体質に合った水であれば確実に効果は(特に皮膚疾患に関しては)あるようです。
以前の水の記事で、硬水よりは軟水の方が肌には良い、という話をしました。

また、温泉の成分も合う体質、合わない体質など様々です。

日常口にし、また皮膚に触れものですから、体質に合った水や温泉を見つけられた方は幸運なのかも知れません。
確かにその温泉の湧き水は美味しかったし、湯当たりは家のお風呂とは比べ物にならない程柔らかかった。

そういう訳で今でも温泉や湧き水と聞くと、家の隅にでん! と置かれていたポリタンクや、のんびりとはしているけれど退屈でもあった湯治のことが反射的に思い出されます。
湧き水はいいとして(単に飲むだけでしたから)、退屈な温泉に連れて行かれる方が憂鬱でもあった夏休み。
カラスの行水をすると叱られるので、渋々温泉の中で100を数えたり、水鉄砲をして遊んだりと試行錯誤していた記憶が少し懐かしくもあり。
子どもの頃はわからなかったそれらの良さがわかる年齢になり、今なら喜んで湯治に行くだろうになあと思う日々です。