水の味

コラム

水の味

柊クイチ [2012/3/1]

筆者は特に味覚が鋭い方ではないけれど、幼い頃から『水は味がしない』と聞く度に首を傾げていました。
というのも、水道水も、ミネラルウォーターも、どこかの湧き水も、何かしらの『味』を感じていたからです。特に水道水はあまり好きではなく、少し臭みがあるように感じて、あまりそのまま飲むことはありませんでした。

美味しい水、と言われると思い出すのは、夏休み毎に行っていた祖父母の家。水が美味しいと言うと、祖母がどことなく嬉しそうにしていたことが強く記憶に残っています。

実際に祖父母の家の水道水は、夏に少し水を出しておくと蛇口に水滴がつくほど冷たく、わざわざジュースを飲む必要はないくらいだったのです。

その後筆者は少し大きくなった頃に祖父母のいる地域へと引越し、進学と同時に上京して今に至るのですが、東京の水道水の不味さに驚きました。
最初はそれこそ、歯磨きの際口に含むのも躊躇われた程臭みを強く感じたのです。

歯磨きまでは我慢できても、飲むのはさすがに無理。
という訳で、この辺りからペットボトルのミネラルウォーターを買い始めました。

何種類か試してみて、硬水よりは軟水の方が自分の口に合うことを知り、冷蔵庫には常にミネラルウォーターのある生活に。そのまま東京に住み続けているので、水を買う習慣というのがすっかり身についてしまいました。

飲むペースは大体2日で1本〜2本消費する程度。私は料理にはミネラルウォーターは使わないのですが、初めの頃は意外と水って飲むものだなあ……と思ったものです。

引っ越す度に思うのは、同じ東京でも水の味が全く違うこと。口に含むのも躊躇う程、というのは最初の部屋だけでしたが、やはり実家の水と比べると全体に臭みが強め。
更に、同じ地域でも家毎に水の味は違ってきているように思います。消毒の具合なのか、配管なのか、タンクなのか、その辺りの事情はわかりませんが、少しずつ違うのは確かです。

そして水が違うせいなのか、実家と同じ材料を使ったはずの料理でさえ、確かに味が違ってしまいます。
だし加減、火の通し具合もそうですが、もっと決定的な何か。
最近水に関する記事を書いている内に、『母と同じ味にならない』というのは水の影響もかなりあるのだと気付きました。同じ材料、同じ手順をなぞっていても、水だけはそうはいきません。
そういうことも全部含めて『水の味』と言ってもいいのではないか、と最近思うようになりました。

その場所でしか口にできない味。例え世界中の食材や水が通販で買うことができるようになった今も、それは確かにあるのでしょう。
そう思えば、例え何気なく蛇口から出る水道水も、『そこにしかない味』と言っていいのかも知れません。